見下ろし、馳せる

見下ろし、馳せる



高専の同期が、呪術を使った殺人を遂行したらしい。

忌庫の同僚が、未登録の特級呪霊の被害に遭ったらしい。

呪いを殺し自身を癒す。それだけではいけないとわかっていながら役に立てない、出来ない自分に嫌気が刺す。わかっていた。なんとなく、気づいていた。みんなの様子が少しずつおかしくなっていたことも、みんなから自分がわざと遠ざかっていたことも。


他人が嫌いだ。他人とは理解し合えないしし合えるはずもない。他人を治したくない。他人に気を割きたくない。それでも善人ではいたい。自分の都合のために人を助けたい。だから私は孤独でいる。そんな腐った自身の性根だが、とうとう根だけではなく幹や歯も腐り始めていたようだ。

「最近の子はすごいなぁ…」

特級相当を誰1人として欠けることなく各個撃破。もう充分一級と言っても過言ではないレベルだ。仲間などいらないと任務時以外は人を避けていた自身の愚かさが身に染みる。その特級のうち2体は九相図の受肉体だったらしい。ほら、私の不手際のせいだ。

ぐいっと酒を呷る。何杯目かは数えていない。数えていても酔わない体質なんだから意味がないし、酔ったら酔ったで反転を回せばいい。

窓の外を見上げる。遠くに見える東京郊外の街中はオレンジの街灯で照らされている。私の嫌いな、あいつらとあの人たちが来る印の、オレンジの光。折角だから気分転換がてら猪野ちゃんか硝子さんでも誘って外にも飲みに行こうかな。いや、2人とも任務で疲れてるよな、なんて思う。

もっとみんなといっぱい話して、いろんなところに行っておけば良かったなんて、贅沢な後悔をしている。みんなには私なんて必要なかったのに。最初から、そこにいないのと同じだったのに。

これだけ後悔しても、私の中には未だどこか単独行動以外への嫌悪感があって、自分のことがもっと嫌いになる。そんな、九月の夜九時だった。


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